
「時間内に食べ終わらない」と言われたとき、まず考えたいこと
保育園や学校の面談で給食の食べる速さを指摘されると、しつけや好き嫌いの問題かと気になるものです。ただ、食べる速さには噛む力や噛み合わせ、飲み込みの働きといったお口の発達が関わっていることもあります。この記事では考えられる要因を整理し、家庭での工夫と歯科医院へ相談する目安をお伝えします。
この記事の要点まとめ
- 食べる速さには、噛む力や噛み合わせの発達、飲み込みの働きが関わる場合があります。
- 食事時間の短さや配膳量など、給食ならではの環境要因が影響することもあります。
- 一口量や姿勢の調整を試み、ため込みが続く際は歯科医院への相談も選択肢となります。
食べる速さに関わる噛む力・噛み合わせ・飲み込みの働き

食事は「かじり取る」「噛み砕く」「まとめる」「飲み込む」という一連の動作の積み重ねです。このどこかに引っかかりがあると、同じ量を食べるのにかかる時間は自然と延びていきます。
噛む力が十分に育っていないと起きること
噛む力(咬合力)と、食べ物をどれだけ細かくできるかという咀嚼効率は、年齢とともに伸びていきます。3〜5歳児を対象にした研究では、乳臼歯部の噛む力が年齢の上昇に伴って増加することが報告されています1。裏を返せば、同じ年少クラスの中でも発達の進み具合には幅があるということ。噛む力が育っている途中の段階では、繊維の多い野菜や弾力のある肉を細かくするまでに回数と時間がかかります。口の中にため込んだまま動きが止まる、飲み込むまでが長い、といった様子はその表れかもしれません。
噛み合わせのずれが咀嚼効率を下げる仕組み
上下の歯がきちんと噛み合っていないと、食べ物をすりつぶす面が十分に使えません。学童期の子どもを対象にした調査では、咬合力と咀嚼効率に関連がみられることが示されています2。前歯が噛み合わない、奥歯だけが先に当たるといった状態では、力が分散して一回の咀嚼で処理できる量が減り、結果として回数が増えます。歯が生え替わる時期は一時的に噛みにくくなることもあり、その期間だけ食べる速さが落ちる場合もあります。
飲み込みにくさが疑われるお子さんの様子
「食べるのが遅い」「飲み込めない」と感じるとき、次のような様子が重なっていないか見てみてください。
- 水やお茶で流し込むことが多い
- ほとんど噛まずに飲み込む、逆に噛み続けて飲み込まない
- 食事中に口が開いたままで、唇が閉じにくい
- 舌で押し出すような動きがある
お口の健康は全身の健康や食習慣と結びついており、幼少期の食べ方は生涯の食生活の土台になります3。気になる様子が続くようなら、しつけの前に機能面を見てみる価値があります。
性格の問題と誤解されやすい心理的・環境的な要因
お口の機能だけが理由とは限りません。食卓の空気や食材との相性も、食べる速さを左右します。
おしゃべりや気の散りやすさとの見分け方
手が止まって周りを見ている時間が長いなら、気の散りやすさの影響が大きいと考えられます。一方、口はずっと動いているのに減らない、あるいは口に入れたまま固まっているなら、処理そのものに時間がかかっている可能性があります。同じ「遅い」でも、止まっているのか動き続けているのかで見るべき方向が変わります。家庭の食事を数分だけ横で観察し、どちらのタイプに近いかメモしておくと、あとで先生や歯科医院に伝えるときに役立ちます。
食べ慣れない食材や偏食が食事時間を延ばすケース
食べ慣れない食材は、口に入れてから「どう噛むか」を探る時間が発生します。硬さや繊維の方向、水分量が家庭の料理と違えば、慣れた食べ方が通用しません。偏食が続いて軟らかいものばかりになっていると、噛む経験そのものが積み上がりにくくなります。ただし、無理に硬いものを増やせばよいという単純な話ではなく、その子が今処理できる硬さより少しだけ上を選ぶほうが現実的です。
完食指導や急かされる経験が食事への意欲に与える影響
「早く食べて」と繰り返し言われる経験が重なると、食事の時間そのものに緊張が伴うようになります。緊張すると唾液が出にくくなり、飲み込みにくさが増すこともあります。上のお子さんと比べて焦る気持ちが湧くのは自然なことですが、食べる速さは育て方だけで決まるものではありません。体格、歯の生え替わり、その日の体調でも変わります。
給食という環境そのものが持つ時間の制約
家庭では時間内に食べられるのに、園や学校だと残してしまう。この差には、給食ならではの事情が関わっています。
準備・片付けを除いた実質的な食事時間の短さ
給食の時間として確保されている枠には、手洗い、配膳、いただきますの挨拶、食後の片付けや歯みがきが含まれます。枠全体の時間から準備や片付けにかかる時間を差し引くと、実際に箸を動かせる時間は思っているより短くなっている場合も珍しくありません。家庭で「30分かかる」お子さんにとっては、それだけで時間内の完食が難しくなります。まずは園に、実質的な食事時間がどのくらいか確認してみると状況がつかみやすくなります。
配膳量と噛む力・食べる速さのミスマッチ
給食の量は学年ごとの標準に沿って決められます。体格や噛む力には個人差があるため、標準量が多く感じられるお子さんもいます。量が多いと最初から気持ちが後ろ向きになり、さらに時間がかかるという流れができやすくなります。配膳の段階で減らしてもらえるか、園や学校で給食を担当する窓口の方針を確認しておくとよいでしょう。自治体によっては保健給食課など給食を所管する部署が献立表や給食だよりを公開しており、食材や量の目安を家庭でも把握できます。
発達の特性が食べにくさに関わる場合
感覚の過敏さがあると、特定の食感やにおいが強い刺激になり、口に入れること自体に時間がかかることがあります。注意の向きやすさに特性がある場合、周囲の音や動きで食事が中断されやすくなります。こうした特性は本人の努力不足ではなく、環境の調整で食べやすくなることがあります。気になる場合は、園の先生や保健の担当者、かかりつけの小児科と情報を共有しながら進めるのが現実的です。
家庭でできる工夫と歯科医院へ相談する目安

家庭で試せることと、専門的に見てもらったほうがよいことを分けて考えると動きやすくなります。
一口量や噛みごたえを段階的に調整する方法
一度に口へ入れる量が多いと、噛み切るまでに時間がかかります。前歯でかじり取れる大きさに切り分ける、スプーンを小さめにするといった調整から始めてみてください。噛みごたえは、いきなり硬い食材に変えるのではなく、加熱時間を少し短くする、繊維を断つ切り方から残す切り方へ変える、といった段階的な変化が取り組みやすい方法です。
食べるときの姿勢も見直したいところ。足が床や踏み台につかず宙に浮いていると、噛む力を支える土台が不安定になります。椅子の高さを調整して足裏がしっかり接地する状態をつくるだけでも、噛む動作は安定しやすくなります。姿勢と噛む力の関係については姿勢に特化した情報サイトもあわせて参考にしてみてください。
園や担任の先生へ配慮を相談する際の伝え方
「早く食べさせてほしい」ではなく、事実と希望を分けて伝えると話が進みやすくなります。たとえば「家庭では30分程度かかっています」「配膳の時点で少なめにしていただくことは可能でしょうか」「完食を目標とする指導をされているか教えていただけますか」といった伝え方です。家庭での様子を書き留めたメモがあると、園側も対応を検討しやすくなります。
歯科医院への相談を検討したい具体的な目安
次のような様子が重なるときは、お口の機能を確認する視点を加えてもよい段階です。
- 食事に毎回30分以上かかり、口にため込む時間が長い
- 唇が閉じにくく、食事中や普段から口が開いている
- 水分で流し込む、丸のみが続く
- 噛み合わせのずれや歯並びが気になる
小児期のお口の発育は、日々の食べ方や呼吸の仕方と結びついています4。口唇の閉じる力を測る機器(りっぷるくん)などで現状を客観的に確認し、必要に応じて口の周りの筋機能を育てる練習や、小児矯正を含めた選択肢を検討していく流れが一般的です。当院では小児歯科の診療を通じて、成長段階に応じたお口の機能について保護者の方とご相談する機会を設けています。
なお小児矯正は公的医療保険が適用されない自由診療となる場合が多く、装置の種類や治療を始める時期によって内容・期間・回数・費用に幅があります。一般的な目安としては、検査・診断(レントゲンや歯型の採得など)が2万〜6万円程度、乳歯と永久歯が混じる時期に顎の成長を利用して行う一期治療が総額20万〜50万円程度、永久歯が生えそろってから歯並びを整える二期治療が総額30万〜70万円程度とされています。このほか、装置の調整のための通院ごとに3,000〜6,000円程度の調整料がかかることが一般的です。期間と回数の目安は、一期治療でおおむね1〜3年・通院は月1回程度(合計12〜36回程度)、二期治療でおおむね2〜3年・通院は月1回程度(合計24〜36回程度)、治療後に歯並びを安定させる保定期間が1〜2年程度続き、その間は3〜6ヵ月に1回程度の通院となります。これは一般的な相場であり当院の費用ではありません。実際の費用は医療機関により異なり、当院の費用は診察のうえでご案内します。
小児矯正で起こりうる主なリスク・副作用も、あらかじめ知っておいてください。装置を着けた直後や調整した後の数日間は、歯が浮くような痛みや噛みにくさが出ることがあります。装置が当たる部分の頬や唇の粘膜に擦れによる傷や口内炎ができる、装置のまわりに汚れがたまってむし歯や歯ぐきの腫れ・出血が起こりやすくなる、といったことも生じえます。そのほか、一時的な発音のしにくさや唾液の出方の変化、歯の根が短くなる(歯根吸収)、歯の神経が弱る、治療後に歯が元の位置へ戻る(後戻り)、顎の成長の見通しと実際の変化が異なり治療方針の見直しが必要になる、といった可能性もあります。装置装着中はむし歯予防のためのケアを丁寧に続ける必要があります。
園の面談をきっかけに相談に来られるケースもあります。年少のうちから様子を見ておけば、成長を見守りながら対応を考える余裕が生まれます。まずは次の健診やフッ素塗布の機会に、気になる場面を一つ挙げてみるところからで十分です。
よくある質問
Q1. 食べるのが遅い子どもには、何か障害があるのでしょうか。
A. 食べる速さだけで判断できるものではありません。噛む力や噛み合わせの発達段階、食材との相性、食卓の環境など複数の要因が重なることが多くみられます。感覚の過敏さや注意の向きやすさが関わっている場合もあるため、気になるときは園の先生や小児科、歯科医院など複数の視点から様子を共有していくとよいでしょう。
Q2. 給食が時間内に終わらないとき、家庭ではどう対応すればよいですか。
A. まず園に、準備や片付けを除いた実質的な食事時間と、配膳量の調整が可能かを確認してみてください。家庭では一口量を小さくし、足裏が床や踏み台につく姿勢を整えるところから始めると取り組みやすくなります。急かす声かけは緊張を招くことがあるため、量より「よく噛めたこと」に目を向ける伝え方をおすすめします。
Q3. 食べるのが遅い状態は、家庭の工夫だけで変えられますか。
A. 一口量や食材の硬さ、姿勢の調整で食べやすくなることはあります。ただし噛み合わせのずれや唇・舌の使い方に要因がある場合は、家庭の工夫だけでは届きにくい部分も残ります。30分以上かかる状態が続く、口にため込む、水分で流し込むといった様子が重なるなら、一度歯科医院でお口の機能を確認してみる段階と考えてよいでしょう。
Q4. よく食べる子と食べない子では、何が違うのでしょうか。
A. 体格や活動量による必要量の差、食材の好み、噛む力の発達段階、その日の体調など、さまざまな要素が絡みます。きょうだいでも差が出るのは自然なことです。量の多い少ないだけで比べるより、噛んで飲み込むまでの動きがスムーズかどうかに目を向けると、必要な対応が見えやすくなります。
Q5. 何歳ごろから歯科医院に相談できますか。
A. 年齢の制限は特にありません。乳歯が生えそろう時期や、歯が生え替わり始める時期は変化が大きく、様子を見ておく意味があります。健診やフッ素塗布の来院時に、食事中の気になる場面を伝えていただければ、成長段階に応じた進め方を一緒に考えていけます。
参考文献
1. Maeda T, Imai U, Saito T, et al. 小児の摂食機能および摂食行動に関する研究 1. 3・4・5歳児の咬合力と咀嚼能率. Shoni Shikagaku Zasshi (The Japanese Journal of Pedodontics), 1989. PMID: 2489885
2. Maki K, Nishioka T, Morimoto A, et al. A study on the measurement of occlusal force and masticatory efficiency in school age Japanese children. International Journal of Paediatric Dentistry, 2001. PMID: 11570444 / DOI: 10.1046/j.1365-263x.2001.00298.x
3. 厚生労働省「健康づくりサポートネット(疾病・健康に関する情報)」 https://kennet.mhlw.go.jp/information/
4. 日本小児歯科学会 https://www.jspd.gr.jp/
新潟県立新津高校卒業
2008年
明海大学歯学部歯学科卒業
明海大学付属明海大学病院 歯科医師臨床研修(〜2009年)
2009年
明海大学歯学部 オーラルリハビリテーション学分野入局 PDI診療センター勤務(〜2013年)
2013年
新潟大学大学院医歯学総合研究科 組織再建口腔外科学分野入局(〜2017年)
2015年
富山県立中央病院歯科・口腔外科勤務(〜2016年)
2017年
新潟大学大学院医歯学総合研究科修了(歯学博士学位取得)浅井歯科医院勤務
(4月1日)日本顎咬合学会入会
2010年
(6月23日)日本口腔インプラント学会入会
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